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価格競争から抜け出す会社は、何を売っているのか

「価格競争から抜け出したい」

多くの企業が一度はそう考えたことがあるのではないでしょうか。しかし、同じような商品、同じようなサービス、同じような売り方をしていれば、最後に比較されるのは価格です。機能や品質の違いが分かりにくくなればなるほど、消費者にとって価格は最も分かりやすい判断基準になります。では、価格競争から抜け出している会社は何が違うのでしょうか。海外の企業や店舗を見ていると一つの共通点が見えてきます。それは、商品そのものだけを売っていないということです。商品に体験を重ねる、空間を重ねる、物語を重ねる、そして、選ぶ楽しさや人とのつながりまで価値として設計する。そうすることで、どちらが安いかという単純な比較そのものから離れている企業があります。今回は、そんな6つの事例から価格競争について考えてみたいと思います。





メガネ屋を「目的地」に変えたGentle Monster


Gentle Monsterは韓国発のアイウェアブランドです。

メガネやサングラスを扱うブランドですが、その店舗に入ると一般的なアイウェアショップとはまったく違う光景が広がっています。巨大なオブジェ、機械仕掛けのインスタレーション、映像、音、アート。商品を見る前にまず空間そのものに圧倒されます。普通なら店舗は商品を買うために行く場所です。Gentle Monsterは、それを「その空間を見るために行きたい場所」へ変えました。だから商品を買う予定がなかった人まで訪れる。そこで感じた驚きが写真や動画としてSNSで共有され、それを見た人がまた店を訪れる。つまり、店舗が販売の場所であると同時に、ブランドの世界観を発信するメディアにもなっているわけです。広告で店舗へ人を集めるだけではなく、店舗そのものが広告になる。リアルな場所の価値を考えるうえでとても興味深い発想です。

公式サイト
https://www.gentlemonster.com/





「おもちゃを買う」を目的にしないCAMP


CAMPは、アメリカで展開するファミリー向けの体験型ショップです。

一見するとおもちゃを販売する店ですが、その魅力は商品棚だけにあるわけではありません。店舗そのものに遊びや驚きが組み込まれ、子どもたちがおもちゃの世界に入り込んだような時間を楽しめるよう設計されています。考えてみれば、おもちゃは非常に価格比較されやすい商品です。同じ商品であれば、ネットで検索すればもっと安く販売している店を簡単に探すことができます。その世界で安さを競い続ける限り、価格競争から逃れることは難しい。CAMPが面白いのはそこで競争しなかったことです。おもちゃを売ることに親子で過ごす時間や、子どもが夢中になる体験を重ねました。すると店舗へ行く理由が「おもちゃを買う」から「家族で楽しむ」へと変わります。同じ商品を扱っていても、顧客がそこで買っている価値そのものが変わっていくのです。

公式サイト
https://camp.com/





スーパーという日常を異世界に変えたOmega Mart


さらに極端なのが、アメリカのアート集団Meow Wolfが手掛けるOmega Martです。

入口に広がっているのは、一見すると少し変わったスーパーマーケットです。棚には奇妙な商品が並び、ユーモアのあるパッケージを眺めているだけでも楽しめます。ところが店内を探索していくと、棚や冷蔵庫の奥に通路があり、その先には巨大な異世界が広がっています。来場者は自ら歩き回り、この世界で何が起きているのかを少しずつ発見していきます。

面白いのは、スーパーという誰もが知っている日常的なフォーマットを入口にしながら、そこからまったく違う世界へ連れていくことです。体験を終えたあとに記憶に残るのは何を買ったのかではありません。何を発見したのか、どこに迷い込んだのか、誰とその時間を過ごしたのか。そうした一連の出来事そのものです。Omega Martが提供しているのは、モノというよりも、探索する体験と、その背後にある物語なのだと思います。商品やサービスに物語が加わることで、顧客は単なる「買い手」ではなく、その世界に参加する「登場人物」になっていく。これは、価値のつくり方として非常に興味深い事例です。

公式サイト
https://meowwolf.com/visit/las-vegas





「アイスクリーム」を世界観に変えたMuseum of Ice Cream


Museum of Ice Creamは、アイスクリームをテーマにした没入型エンターテインメント施設です。

名前だけを見るとアイスクリームについて学ぶ博物館のようにも思えます。しかし実際には、巨大なスプリンクルプールやカラフルな空間、さまざまな遊びやインタラクティブな仕掛けを楽しみながらアイスクリームの世界そのものに入り込む施設です。ここで提供されている価値を考えてみるととても面白いことが分かります。アイスクリームを売る、アイスクリームを食べる時間を売る、さらにその先に、アイスクリームの世界に入り込む体験を売る。アイスクリームという商品だけなら数百円単位で価格を比較されます。しかし、そこに世界観や空間、写真を撮りたくなる瞬間、誰かと共有したくなる体験まで加われば、価値の基準そのものが変わります。価格競争から抜け出すとは単純に高い価格をつけることではありません。価格以外にどれだけ価値を積み重ねられるか。Museum of Ice Creamは、そのことを分かりやすく教えてくれます。

公式サイト
https://www.museumoficecream.com/





「ショップ」を集めるのではなく「体験」を集めるAREA15


ラスベガスのAREA15は、この考え方をさらに大きなスケールで実現しています。

Omega Martをはじめ、アート、アトラクション、飲食、ライブ、イベントなど、さまざまな体験コンテンツが集まっています。一般的な商業施設では、どんなショップが入っているのかが集客力になります。一方、AREA15では、ここへ行くと何が体験できるのかが施設を訪れる理由になっています。つまり、集めているものが「店舗」ではなく「体験」なのです。これは、商業施設の考え方として非常に大きな変化だと思います。ECが普及し、商品を買うだけならリアルな場所へ行く必要はなくなりました。だからこそリアルな場所には、そこへ行かなければ得られない価値が求められる。AREA15は、その価値を一つの商品や店舗だけではなく、施設全体でつくっています。ショップを集めるのではなく、ここでしかできない体験を集める。リアルな商業空間の新しい形を示すAREA15が価値つくりに変化を起こしました。

公式サイト
https://www.area15.com/





迷わず買った2500円のコーヒー


ここまで紹介してきたのは、海外の比較的大規模で個性的な事例です。

しかし、価格競争から抜け出すヒントはもっと身近なところにもあります。その一つが、小川珈琲です。小川珈琲は、私自身が日常的に飲んでいるコーヒーでもあります。だからこそ、店舗を訪れた際に改めてその売り方を見ると、コーヒーという商品の価値をどのように広げているのかがとても興味深く感じられました。店舗では、それぞれのコーヒーが持つ味わいを「Flavor Compass」として可視化し、自分の好みに近いコーヒーを探せるようになっています。酸味が強いのか、コクがあるのか、どんな香りや余韻を楽しめるのか。専門知識がなくても感覚的に違いを理解しながら選べる。
つまり、そこで提供されているのはコーヒー豆だけではありません。

自分の好みを知り、自分に合ったコーヒーを見つける時間まで含めて価値にしている。そして、今回さらに印象に残ったのが、特別なコーヒー豆を使ったリキッドコーヒーでした。価格は一本、2500円。一般的なリキッドコーヒーとして考えれば、決して安い価格ではありません。しかし、私はほとんど迷うことなく購入しました。小川珈琲を日常的に愛飲している私にとっては、この豆を使ったリキッドコーヒーなら飲んでみたいという気持ちの方が価格より先に立ったからです。しかも、黒を基調としたボトルとパッケージには特別感があり、まるでワインを選んでいるような感覚もありました。

ここで改めて気づいたことがあります。価格競争から抜け出すとは、顧客に価格を意識させなくなることなのかもしれない。もちろん、2500円という価格を見ていないわけではありません。それでも、高いか、安いかを比較する前に「欲しい」と思った。この順番が重要なのだと思います。普段から飲んでいるブランドへの信頼があり、特別な豆という物語があり、パッケージにも特別感があり、店舗でその価値を知る体験がある。それらが重なることで、単なるリキッドコーヒーではなくなっていたのです。もし商品名と容量と価格だけが並んでいれば、私は「他の商品と比べてどうなのか」と考えたかもしれません。しかし、このとき私が買ったのは、コーヒーそのものだけではありませんでした。

いつも飲んでいるブランドへの信頼と、特別な一杯を体験してみたいという期待まで含めて買っていた。これは、今回紹介してきた海外の事例と本質的には同じだと思います。巨大なアート施設や派手な演出がなくても、顧客と商品の間にある体験を丁寧に設計することで、価格以外の価値はつくることができます。商品を変えなくても、その商品との出会い方は変えられる。そして、その出会い方が変われば、顧客の価格に対する感じ方まで変わっていくのだと思います。

公式サイト
https://www.oc-ogawa.co.jp/



特別なコーヒー豆を使った2500円のリキッドコーヒー。小川珈琲愛飲者の私は、価格を比較するより先に「飲んでみたい」と思い即決しました。




味わいを可視化したFlavor Compass。コーヒーを売るだけでなく、自分好みの一杯を見つける体験までデザインしています。






価格競争から抜け出す会社は「比較される軸」を変えている


Gentle Monsterは、メガネにアートと空間を重ねました。
CAMPは、おもちゃに家族の時間を重ねました。
Omega Martは、日常的なスーパーに探索と物語を重ねました。
Museum of Ice Creamは、アイスクリームを世界観へと広げました。
AREA15は、商業施設そのものを体験の集積へと変えています。
そして小川珈琲は、コーヒーに選ぶ楽しさ、ブランドへの信頼、特別な一杯への期待を重ねています。

扱っている商品も、企業の規模も、ビジネスモデルもまったく違います。それでも、根底にある考え方は共通しています。商品そのものだけで勝負しない。価格競争とは、価格設定だけの問題ではありません。比較するものが商品や機能しかなければ、最後は価格が比較されます。だから、価格競争から抜け出すために必要なのは、単純に値段を上げることでも、値引きをやめることでもありません。比較される軸そのものを変えることです。商品に体験を重ねる、体験に空間を重ねる、空間に物語を重ねる。そこに、人との関係やブランドへの信頼、選ぶ楽しさ、知る喜びまで加えていく。価値が何層にも重なるほど、他社と横並びで比較することは難しくなっていきます。そして小川珈琲の事例を自分自身の購買体験として振り返ると、さらに一歩踏み込んで考えられます。

価格競争から抜け出した状態とは、単に高くても売れるということではない。顧客の頭の中で、価格より先に価値が立ち上がる状態をつくること。それこそが本質なのではないでしょうか。自分たちは、本当は何を売っているのか?これは、小売やエンターテインメントだけの話ではありません。飲食店でも、ホテルでも、美容室でも、サービス業でも、BtoB企業でも同じです。自社の商品やサービスだけを見れば、競合との差はそれほど大きくないかもしれません。機能も似ている、品質も似ている、価格も似ている。だからこそ、その外側にどんな価値をつくるのかが重要になります。顧客はその会社と関わることでどんな時間を過ごすのか、どんな感情になるのか、どんな発見があるのか、どんな物語を持ち帰るのか、そして、誰かに話したくなる理由があるのか。そこまで含めて「商品」と考えることができれば、競争のルールそのものを変えられる可能性があります。

ネットによって商品や価格を簡単に比較できる時代だからこそ、企業には検索結果の一覧表には載らない価値が求められているのだと思います。価格競争から抜け出す第一歩は、値段を考えることではありません。「自分たちは、本当は何を売っている会社なのか」 その問いから、もう一度、自社の価値を考えてみる。そして、顧客が価格を比較するより先に「欲しい」「行きたい」「体験したい」と感じる理由をつくる。そこに、価格ではなく価値で選ばれる会社になるためのヒントがあるのだと思います。HIRONORI KAJIKAWA









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