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未来を先に使ってみる、経営者のテック・フォワードな暮らし

2026-09-04

テック・フォワードという習慣


私は、新しいテクノロジーが登場するとできるだけ早い段階で自分の生活に取り入れてみるようにしています。AIやスマートグラス、EV、スマートホームなど、少し前まで未来の話だと思っていたものが、いまでは少しずつ日常の中に入り始めています。単純に新しいものが好きという理由もありますが、経営者として考えたとき、それ以上に大きいのは「未来を先に体験しておきたい」という思いです。私はこの姿勢を、自分なりに「テック・フォワード」と捉えています。テック・フォワードとは、単に最新のガジェットを持つことではなく、新しいテクノロジーを実際の生活に取り入れ、その技術によって人の行動や価値観、時間の使い方がどう変わるのかを自分自身で確かめていくことです。ニュースを読んでいるだけでは分からないことがあります。AIについての記事を100本読むよりも、毎日の仕事の中でAIを使い、文章をまとめてもらったり、情報を整理してもらったり、アイデアを壁打ちしたりする方がその変化の大きさを実感できます。実際に使い続けていると、「この仕事は今後どう変わるのか」「逆に、人にしかできない仕事の価値はどこに残るのか」といったことが、単なる知識ではなく自分の感覚として少しずつ見えてきます。





アメリカでは、当たり前の行動が消え始めている


アメリカを見ていると、こうした変化がすでに生活の中で始まっていることを感じますが、その象徴的な存在の一つが自動運転のWaymoです。Waymoは、サンフランシスコ、ロサンゼルス、フェニックスなどを含むアメリカの主要都市圏で、一般の利用者がアプリから完全自動運転車を呼べるサービスを展開しています。2026年2月の発表では週40万回以上のライドを提供しており、2026年にはさらに多くの都市への展開を進めています。もはや自動運転は、「いつ実現するのか」を議論するだけの技術ではなく、実際に人々が日常の移動に使うサービスになりつつあります。ここで興味深いのは自動運転そのものの性能だけではなく、これまで車で移動するときには誰かが運転することが当たり前だったのに対し、その必要がなくなることで、車内で仕事をしたり、人と話したり、情報を見たりできるようになり、移動する時間の意味そのものが変わっていく可能性があることです。EVについても同じことを感じます。電気で走るというスペックだけを見ていてもその本質的な変化はなかなか分かりませんが、自宅で充電する生活を体験すると、ガソリンスタンドへ行くという、これまで当たり前だった行動そのものがなくなる可能性に気づきます。さらに、車がインターネットにつながり、ソフトウェアによって機能が更新され、自動運転まで一般化していけば、自動車という存在そのものが大きく変わっていくかもしれません。自動車の進化を見るときに重要なのは、馬力や航続距離といった性能だけではなく、人はこれから移動時間をどう過ごすのかという視点です。





スマートフォンを取り出さない未来


もう一つ、私が注目しているのがAIグラスです。MetaはRay-Ban MetaなどのAIグラスを展開しており、2026年5月には日本でも販売が始まりました。写真や動画をハンズフリーで撮影したり、音楽を聴いたり、音声でMeta AIに質問したりすることができ、世界ではすでに数百万台規模が販売されています。現時点ではスマートフォンに代わる存在とは言えないでしょうが、メガネをかけたまま目の前のものについてAIに質問したり、その瞬間を撮影したりできる体験に触れていると、その延長線上にある未来を想像することができます。これまで私たちは、何かを調べようと思えばスマートフォンをポケットから取り出し、画面を開き、検索窓に文字を入力してきました。しかし、AIグラスがさらに進化すれば、「スマートフォンを取り出す」という行動そのものが減っていく可能性があります。私がこうしたところにテクノロジーの面白さを感じるのは、新しいデバイスが一つ増えるという話ではなく、そのデバイスによって、これまで当たり前だった人間の行動が一つなくなっていくかもしれないからです。テクノロジーの進化は、何かを追加するだけではなく、私たちがこれまで必要としていた行動を減らしていくことでもあるのだと思います。

Even G2は、視界に通知・翻訳・ナビ・AIの回答などを表示できるHUD搭載AIメガネ。普段使いしやすい自然なデザインも魅力です。



Even G2(HUD搭載AIメガネ)を装着すると、知りたい情報がリアルタイムで表示されます。





「スマートホーム」から「AIと暮らす家」へ


住まいにも同じ変化が起き始めています。Googleは2026年4月、日本でもGemini for Homeの早期アクセスを開始しました。Geminiがスマートスピーカーだけでなく、カメラやインターフォン、Google Homeアプリなど、家の中のデバイスとつながり、従来の音声アシスタントよりも自然な会話を通じて家を操作できる方向へ進化しています。これまでのスマートホームは、「電気を消して」「エアコンをつけて」と、人間が機械に明確な指示を出すものが中心でしたが、生成AIが家の中に入ってくることで、その関係も変わっていくように思います。将来的には、「少し暑いね」「そろそろ寝ようかな」といった自然な会話や生活の状況からAIが意図を理解し、家の環境を整えていくようになるかもしれません。そうなれば、「スマートホーム」という言葉さえ、いつか使わなくなる可能性があります。スマートフォンが普及したあと、私たちがいちいち「スマートフォンを使った生活」と言わなくなったように、AIが家の中に存在することも当たり前になっていくからです。Waymoによって「運転する」という行動が変わり、AIグラスによって「スマートフォンを見る」という行動が変わり、Gemini for Homeによって「機械を操作する」という行動が変わっていく。こうして見ると、テクノロジーの進化とは新しい製品が増えることではなく、私たちがこれまで当たり前だと思っていた行動が少しずつ書き換えられていくことなのだと思います。





経営者は「変化の後」ではなく「変化の前」を見る


経営では、いま起きていることに対応することも重要ですが、それ以上に、これから起こる変化を考えることが求められます。ただし、未来を正確に予測することは簡単ではありません。だから私は、未来を予測することよりも、未来を先に使ってみることを大切にしています。社会に広く普及してから使うのではなく、まだ一部の人しか使っていない段階で触れてみることで、その先に起こりそうな生活者の変化まで想像しやすくなるからです。スマートフォンが普及したときも、変わったのは電話機だけではありませんでした。買い物の仕方が変わり、広告のあり方が変わり、メディアとの接し方が変わり、コミュニケーションや働き方まで大きく変化しました。経営者として見たいのは、この技術は売れるのかということだけではありません。「この技術によって人の行動はどう変わるのか」「その変化が自分たちの事業にどのような影響を与えるのか」を考えることが重要だと思っています。新しい技術を生活に取り入れることは、そうした問いを持つための一つの方法でもあります。





テクノロジーと暮らすということ


一方で、私はテクノロジーに生活を支配されたいわけではなく、むしろ、人間の時間を取り戻し、自分らしく使える時間を増やすためにあるものだと考えています。AIによって資料を作る時間が短くなり、自動化によって単純作業が減り、自動運転によって移動中にも別のことができるようになれば、これまで当たり前のように使っていた時間の一部を、別のことへ振り向けられるようになります。その時間を、人と話すことに使うのか、じっくり考えることに使うのか、新しい場所へ行って体験を増やすのか、それとも家族と過ごすことに使うのか。テクノロジーが進化すればするほど、何ができるようになるかだけではなく、生まれた時間を何に使うのかという、人間側の選択がより重要になっていくように思います。これは経営においても同じで、効率化できる仕事はテクノロジーに任せ、その分だけ、人と向き合うことや、考えること、新しい事業の可能性を探すことに時間を使うことができれば、経営者自身の仕事の質も変わっていきます。だから私にとって「テクノロジーと暮らす」ということは、最新機器に囲まれて生活することではなく、テクノロジーを上手に取り入れながら、自分の時間の使い方や仕事のあり方を少しずつアップデートし、より大切なことに時間を使える状態をつくっていくことです。





未来は、使った人から見えてくる


新しい技術が登場するたびに、「これは流行るのか」「本当に普及するのか」といった議論が起こりますが、もちろん、すべての技術が社会に定着するわけではなく、新しいからという理由だけですべてを無条件に受け入れる必要もないと思っています。それでも私は、外から評論するだけではなく、まず自分で使ってみたいと考えています。実際に使えば便利さだけでなく不便さも分かり、期待していたほどではないこともあれば、逆に想像以上に生活や仕事を変える可能性を感じることもあります。そうした体験を重ねていくことで、その技術単体の評価だけではなく、「これがもっと普及したら人の行動はどう変わるのか」「そのとき、仕事や消費、移動、コミュニケーションはどう変わるのか」と、その先まで考えられるようになります。未来を正確に当てることはできませんが、その断片に触れることはできます。経営者として新しい技術を自分の生活に取り入れる理由はまさにそこにあり、遠くから眺めるのではなく、まず自分で使い、自分自身の体験から次に起こる変化を考えることで、まだ見えていない未来の輪郭が少しずつ見えてくるのだと思います。だから私はこれからも、新しい技術を生活の中に取り入れながら、便利か不便かだけで判断するのではなく、その先で人の暮らしや価値観がどう変わっていくのかを考えていきたいと思っています。未来を先に使ってみることで、これから起こる変化を考える解像度も少しずつ上がっていく。それが、私にとってのテック・フォワードです。HIRONORI KAJIKAWA











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