パーパスカフェを半年続けて見えてきたこと
2026-08-21
1月7日 まずは「語り合う場」をつくるところから
最初に考えたのはとてもシンプルなことでした。理念を浸透させたいのであれば、まず理念について話す時間そのものを増やせばいい。ブランドブックを片手に一つの言葉を取り上げ、それぞれが自分の経験や考えを話していく。いわゆる研修ではなく、コーヒーを飲みながらゆっくり話す朝の時間にしました。もちろん、全社員と一度に語り合うことはできません。それでも、社長自身が時間を使って理念について話している姿を見せ続けることには意味があるのではないか。そんなところからスタートしました。

挽きたてのコーヒーとブランドブックから始まったパーパスカフェ。理念を「読むもの」から「語り合うもの」へ変える小さな実験でした。
1月18日 体験そのものをつくり始める
パーパスカフェを始めてすぐに考えるようになったのが「場のつくり方」です。この取り組みには、売上や収益性といった打算的な目的を置いていません。だからこそ、中途半端にやるのではなく、参加したメンバーの記憶に残る時間にしたいと思いました。コーヒーが苦手な人でも飲みやすいものは何か。どんな雰囲気なら話しやすいのか。どうすれば「また参加したい」と思ってもらえるのか。理念共有という少し堅くなりがちなテーマだからこそ、その周囲には遊びや心地よさが必要なのだと感じ始めた時期です。

参加するメンバーの好みを想像しながらコーヒー豆まで自分で選ぶ。パーパスを語る時間だからこそ、その場の体験にもこだわりました。
2月4日 コーヒーにも物語を持たせる
少し経つとコーヒー豆そのものにもストーリーを持たせるようになりました。SNSで拝見し、一瞬で心を惹かれたカフェ経営者の方から豆を購入したこともあります。単に美味しいコーヒーを出すのではなく、この豆はどこで出会ったのか、なぜ今日このコーヒーなのかを最初に話す。すると、不思議とそこから会話が始まります。今振り返ると、この頃からパーパスカフェは「理念を説明する場」ではなく「物語から対話が始まる場」へ少しずつ変わっていったように思います。

SNSで偶然出会ったカフェ経営者からパーパスカフェ用の豆を購入。コーヒーにも人との出会いや物語が加わり始めました。
5月27日 語った内容を社内に残す
一方で、続けていると課題も見えてきました。一回のパーパスカフェに参加できる人数には限界があります。そこで、パーパスカフェの様子を録画し、Google Vidsを使って簡単に編集して社内共有するようにしました。字幕もほぼ自動。凝った映像ではありません。しかし、社長と数人だけが話した時間が動画として残ることで、その場にいなかった社員にも考え方を届けられるようになりました。対話を一度きりで終わらせず、組織の中に蓄積していく。ここから、パーパスカフェが少しずつ「仕組み」になってきたように感じます。

その場限りだった対話をGoogle Vidsで動画化し、社内へ共有。参加できなかったメンバーにも理念が届く仕組みをつくり始めました。
6月24日 続けることで、会社の風景になる
6月頃になると、私自身にも少し変化が出てきました。最初は毎回、今日は何を話そうか、どうすれば伝わるだろうか、とかなり考えていました。しかし回数を重ねるにつれて、理念を語ることそのものが自然になってきます。理念浸透というと、大きな研修や社内イベントを想像しがちです。しかし本当に大切なのは、年に一度大きく伝えることではなく、日常の中で何度も触れることなのではないかと思います。企業文化はイベントではつくられません。日々繰り返される行動が、少しずつ「この会社ではこれが普通」という状態をつくっていくのだと思います。

特別なイベントだったパーパスカフェが少しずつ日常の風景へ。理念共有を「一度伝えること」ではなく「続けること」と捉えるようになりました。
7月8日 理念と経営がつながり始める
この日のテーマは「理念と経営のつながり」でした。自分が好きな店や企業、ブランドはなぜ好きなのか。そして、以前は好きだったのに利用しなくなった店はなぜ選ばなくなったのか。そんな問いから始めました。社員それぞれが自分の生活を振り返ってみると、価格や立地だけでは説明できない「選ぶ理由」が次々と出てきます。人、接客、世界観、考え方、姿勢。そして、それらを掘り下げていくと、企業が何を大切にしているかという理念に行き着きます。理念は経営とは別に存在するきれいな言葉ではありません。集客にも、売上にも、採用にも、顧客との関係にもつながっている。パーパスカフェを続けることで、その理解が少しずつ組織の中に広がってきた感覚がありました。

「なぜその店やブランドを選ぶのか」を、社員自身の経験から考える。理念が抽象論ではなく、経営や顧客価値とつながり始めました。
7月29日 伝える力を磨く場所にもなってきた
もう一つ、想定していなかった変化があります。それは、社員が「話せるようになってきた」ことです。人は最初から上手に自分の考えを話せるわけではありません。私自身、決して話すことが得意だったわけではありません。しかし、何度も考え、何度も人前で話すことで、確実に伝える力は高まります。誰かの発表が終われば、みんなで拍手する。正解を求めるのではなく、まず話してみることを歓迎する。そんな空気ができることで、徐々に発言することへの心理的なハードルも下がっていきました。今では、パーパスカフェは理念を学ぶ場であると同時に、自分の考えを言葉にするアウトプットの練習場でもあると感じています。

理念について考え、自分の経験と結びつけ、人前で自分の言葉にする。パーパスカフェは、いつしかアウトプットの練習場にもなりました。
8月3日 コーヒーの背景までコンテンツになる
8月には、韓国のスターバックスで購入してきたコーヒー豆を使いました。ただ飲むだけではなく、なぜこの豆を買ったのか、現地で何を感じたのか、韓国で見た体験経済について話してからパーパスカフェを始めます。最近は、私自身が外で経験したことを、できるだけ社内へ持ち帰るようにしています。視察、読書、人との出会い、買い物、食事。経営者が経験したことを自分だけの学びで終わらせず、社員との対話の材料に変えていく。パーパスカフェは、そんな知識や経験を組織へ還元する場にもなってきました。

韓国視察で購入したコーヒー豆をきっかけに、体験経済の話からスタート。社長自身の経験も理念を考える教材になっていきました。
8月19日 ブランドブックの意味も変わってきた
最近、改めてブランドブックの意味について考えました。ブランドブックは、本気で作れば決して安いものではありません。それでも、私は絶対に必要なビジネスツールだと思っています。なぜなら、理念や価値観という本来目には見えないものを、物理的なものとして可視化できるからです。そして何より「会社がわざわざ一冊の本にするほど理念を大切にしている」という事実自体が、社員へのメッセージになります。ただし、ブランドブックを作っただけでは文化にはなりません。開く、読む、話す、考える。自分の経験と結びつける。半年間パーパスカフェを続けてきたからこそ、ブランドブックは「理念が書いてある本」から「理念について語り合うための道具」に変わってきたように感じています。

半年間、何度も開き、何度も語り合ってきたブランドブック。理念を書いた冊子から、理念経営を実践するビジネスツールへ。
半年続けて見えてきたこと
半年間、パーパスカフェを続けてきて、私自身の中で最も大きく変わったことがあります。それは、この方向性は間違っていないという自信が少しずつ生まれてきたことです。もちろん、パーパスカフェを実施したから来月の売上が何%上がる、という話ではありません。組織文化や理念浸透の成果は、短期間では非常に測りにくいものです。しかし、社員が自分の言葉で理念について話す姿、仕事と理念を結びつけて考える姿、他のメンバーの意見に共感する姿を半年間見ていると、数字とは違う種類の手応えがあります。私はこれを、これまで数字や研究として見てきた「理念経営の効果」を、組織の変化として体感し始めている状態だと思っています。実際、Kantar BrandZの分析では、2006年から2018年までの12年間で、Purposeが強いブランドはブランド価値が175%成長した一方で、Purposeが弱いブランドは70%の成長にとどまったというデータがあります。

もちろん、この数字だけをもって「パーパスを掲げれば企業が成長する」と単純に結論づけることはできません。重要なのは、パーパスが掲げられていることではなく、商品、サービス、意思決定、社員の行動、そして顧客とのコミュニケーションまで、一貫したナラティブとして機能していることだと思います。その意味で、このデータは経営者にとって、とても勇気を与えてくれるエビデンスだと感じています。企業文化への投資は、すぐには成果が見えません。だから経営者は、ときどき不安になります。本当にこれでいいのか、もっと売上に直結することへ時間を使った方がいいのではないか、理念について語る時間に本当に意味があるのか。私自身もまったく迷いがなかったわけではありません。しかし半年続けてみて、少なくとも今は思います。文化はつくろうと思った瞬間につくられるものではない。経営者と社員が同じことを何度も考え、何度も語り、何度も行動する。その積み重ねの先にいつの間にか生まれているものなのだと。
まだ、たった半年です。企業文化をつくるという意味では、ようやくスタートラインに立ったくらいかもしれません。それでも、この半年で一つ見えてきたことがあります。理念は、伝えた回数ではなく、語り合った時間の積み重ねによって文化になっていくということです。ブランドブックを片手にコーヒーを飲みながら始めた小さな取り組みが、少しずつ私たちの会社らしい風景になってきました。いつか私たちも胸を張って「私たちの強みは企業カルチャーです」と言える組織になれるように、これからもコツコツと続けていきたいと思います。HIRONORI KAJIKAWA



