組織が育つDX、効率化で終わるDX
2026-09-17
DXで生み出したいのは人と組織が育つ時間
DXを進めるときに私が最初に考えたいのは「何のために取り組むのか」という目的です。業務時間やコストの削減も情報共有の円滑化も大切な成果ですが、目指す組織の姿が明確になってこそ投資すべき対象や生まれた時間の使い道が見えてきます。私がDXを通じて実現したいのは、人が考えたり誰かと向き合ったりする時間を確保し、その積み重ねによって人と組織が育つ環境をつくることです。顧客への理解を深めて新しい提案を考えることや、仲間と課題について話し合いながら次のリーダーを育てることは、会社の未来をつくる大切な仕事です。それでも日々の業務に追われると後回しになりやすいからこそ、デジタルやAIへの積極的な投資によって時間を生み出し、こうした仕事に振り向けられるようにしたいと考えています。効率化によって目の前の業務を早く終えられるようになったとき、その成果を組織の成長へどうつなげるかが経営者に問われます。生まれた時間を学びや対話に使い、新たな挑戦や改善につなげていくことができれば、数年後の組織には大きな違いが生まれるのではないでしょうか。
DXの目的を取り戻したい時間から考える
「DXを進めよう」と考えたときにシステムの比較やツール選びから始めることは多いと思いますが、目的が曖昧なままでは便利な機能が増えても本当に変えたかった仕事が変わらないことがあります。例えば営業担当者が顧客への提案を考える時間を増やしたいのであれば、商談の準備から報告までの流れを確認し、どの業務に時間がかかっているのかを把握する必要があります。情報を探すのに時間がかかっている場合と、資料の作成や複数のシステムへの重複入力が負担になっている場合では、見直すべき仕組みも導入するツールも異なります。人材育成についても管理職に「もっと部下と話してほしい」と求めるだけでは負担が増えてしまうため、日々の集計や報告などの業務を見直すこととあわせて対話の時間を確保する必要があります。育成を大切にする方針を掲げるのであれば、それを実践できる業務のあり方まで整えることが大切です。誰のどの業務を見直せば必要な時間を確保できるのか、その時間を使って何を実現したいのかを具体的にすることで、DXの目的が現場の仕事と結びつき、取り組むべきことの優先順位も明確になっていきます。
業務を減らし、AIに任せる
具体的にDXを進めるうえで最初に取り組みたいのは、業務全体の流れを把握することです。一つの仕事が始まってから完了するまでに情報がどこへ渡り、誰が確認しているのかを整理することで、重複した入力や必要性が薄れた報告だけでなく、確認待ちによって仕事が止まっている箇所も見えてきます。そのうえで今ある業務をそのままデジタル化する前に、そもそも続ける必要があるのかを考えます。誰も判断に使っていない資料の作成をやめたり、同じ内容を別々に報告している仕組みを一本化したりするだけでも負担は軽くなります。こうして業務を整理してから必要な部分に技術を取り入れることで、導入する仕組みもシンプルになります。次に整えたいのは、一度入力した情報を後の工程でも使える仕組みです。例えば問い合わせフォームの情報が顧客管理に反映され、担当者への通知から対応状況の共有までつながれば、転記や連絡にかかっていた手間を減らせます。システム同士で情報をやり取りするAPIや定型作業の自動化を活用することで、人が間に入って情報を移し替えていた仕事を仕組みに任せられるようになります。もちろんAIも積極的に活用したいと考えており、議事録や報告書の下書きから社内資料の検索まで、文章や情報を扱うさまざまな業務で活用の余地があります。問い合わせ内容の分類や提案に必要な情報整理も含め、人が時間をかけていた準備作業を任せることで判断や検討に使える時間を増やしたいと思っています。ただし効果を確かめる際には、AIが出した内容の確認や修正にかかる時間まで含めて業務全体を見る必要があります。下書きが早くできても修正に同じだけ時間がかかれば期待した効果は得られないため、AIに任せる範囲と人が判断する範囲を決めたうえで、扱う情報に適した利用環境や確認の手順を整えていくことが大切です。こうした取り組みは負担の大きい業務を一つ選んで小さく始め、現場の声を聞きながら改善を重ねていくのが現実的だと思います。実際に時間を確保できたかを確かめながら、効果のあった方法をほかの部署や事業にも広げていくことで、組織全体の仕事の進め方を変えていけると考えています。
積極的な投資で人の時間を確保する
DXへの投資を考えるときはシステムの利用料や導入費用に目が向きやすいものですが、人が毎日繰り返している作業にも時間という資源を使っています。その時間は既存の人件費に含まれているため、どれだけの負担になっているのかを改めて捉える機会は少ないかもしれません。例えば10人が毎日30分ずつ行っている作業をなくすことができれば、月20日の稼働で合計100時間を確保できます。この100時間を生み出すためにいくら投資する価値があるのかと考えることで、システムの月額料金だけでは見えなかった判断材料が生まれます。もちろん確保した時間がそのまま利益になるわけではないため、その時間をどのような仕事に振り向け、どんな価値につなげるのかまで含めて投資を考える必要があります。またDXを進めるためにはツールの費用だけでなく、業務を整理する時間や導入を担う人材、社員が使い方を学ぶ機会にも投資が必要です。通常業務を抱えた社員に「空いた時間で進めてほしい」と求めるだけでは改善そのものが後回しになり、いつまでも時間に余裕のない状態から抜け出せません。将来にわたって人の時間を確保するためには、先にお金と時間を投じる判断が必要になります。目の前の費用とともに、その投資によって社員がどのような仕事に力を注げるようになるのかを見据え、実行できる体制まで整えることが経営者の仕事だと思っています。
時間を再投資すると複利が生まれる
私がDXに期待しているのは、改善によって生まれた時間を次の成長に使うことで効果が積み重なっていくことです。例えば集計作業の自動化によって毎月数時間を確保できれば、その時間を使って別の業務の手順を整理することで翌月以降の負担も減らせるかもしれません。さらに生まれた時間を社員の教育に振り向ければ、自分で判断できることが増え、上司への確認や手戻りにかかる時間の削減にもつながります。このように確保した時間を次の時間を生むために使うことを、私は「時間の複利」と捉えています。時間が自動的に増えていくわけではありませんが、改善によって生まれた余裕を学習や仕組みづくりへ再投資することで、その効果を継続的に積み重ねることはできます。社員が身につけた知識や整備された業務手順はその後の仕事にも生き続け、仲間に共有されることで組織全体の力にもなっていくからです。ただし空いた時間をすべて目の前の業務で埋めてしまうと、次の改善に取り組む余裕は残りません。忙しいときほど将来のために時間を使う判断は難しくなりますが、だからこそ確保できた時間の一部を育成や改善に充てると決め、日々の予定に組み込んでおくことが大切です。その積み重ねが次の余裕を生み、組織が成長を続ける土台になっていくと考えています。
福祉の現場では人と向き合う時間へ
私たちの児童福祉事業でもCTOが現場に入ってDXを進めており、業務の負担を軽くすることで子どもや保護者と向き合う時間や仲間と話し合う時間を増やしたいと考えています。例えば記録や情報共有にかかる手間を減らせれば、子どもの小さな変化について職員同士で話し合う余裕が生まれます。日々の支援で気づいたことやうまくいった関わり方を共有できれば、一人の経験がチームの学びとなり、ほかの職員が支援を考える際にも役立つはずです。そこで得た学びを次の支援に生かし、実践を通じて生まれた気づきを再び持ち寄ることで、職員がお互いの経験から学び続ける循環が生まれます。効率化によって確保した時間をこうした対話に使うことが、支援の質を高めるとともに人材の成長にもつながっていくと考えています。人と向き合う仕事だからこそ、そのための時間を確保する手段としてテクノロジーを積極的に活用したいと思っています。顧客への理解を深めることや仲間と知恵を出し合うことの大切さは福祉に限らず、さまざまな事業に共通するものではないでしょうか。
CTOが福祉の現場に入り、日々の業務と課題を共有しながら人と向き合う時間を増やすためのDXを考えています。
現場で画面を確認しながら改善を検討。業務の効率化によって生まれる時間を子どもや保護者への支援と仲間との対話につなげていきます。経営者が決める効率化のその先
DXの成果を確認するときは削減できた時間だけでなく、その時間を当初の目的に使えているかまで見ていきたいと考えています。顧客への提案を増やすための取り組みなら提案を考える時間が増えたか、人材育成が目的なら対話や学習の機会を確保できたかを確かめることで、次に見直すべき課題も明らかになります。そのためにはツールの導入とあわせて業務の配分や役割を見直し、成長につながる活動を日々の予定に組み込む必要があります。育成や改善に取り組む姿勢が評価される環境まで整えることで、社員も安心して将来のために時間を使えるようになるはずです。私にとってDXは、人の可能性に投資するための経営手段です。デジタルやAIに任せられる仕事を増やすことで人が考えたり挑戦したりする時間を確保し、互いに学ぶ経験を次の改善や成長へつなげていきたいと考えています。これからの投資判断では「どれだけ安くなるか」「どれだけ早くなるか」とともに、「確保した時間で何を育てるのか」を問い続けたいと思っています。その答えを現場と共有し、実践できる環境を整えていくことが、組織が育つDXにつながるのではないかと思います。HIRONORI KAJIKAWA



