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アメリカの新技術開発から学ぶ、ゼロリスクを求めない経営

2026-09-24

リスクがあるのになぜ社会実装できるのか


アメリカの新しいサービスやテクノロジーを見ていると、技術そのものよりも「なぜここまで早く社会に出せるのか」ということの方が気になります。自動運転には事故の可能性があり、ドローン配送には墜落や第三者被害のリスクがあり、AIには誤作動や情報漏えいの問題があります。どれも、実際に社会へ出せば何かが起こる可能性を完全には消せない技術です。それでもアメリカでは、対象地域を限定したり、運用条件を定めたり、問題が起きたときの責任や改善の仕組みを整えながら、まず社会の中で使い始める。この姿勢を見ていると、技術開発の速さを支えているのは研究力や資金力だけではないと感じます。リスクをゼロにしてから始めるのではなく、どこまでなら許容できるかを決め、その範囲で前に進む。そうした考え方も社会実装の速さにつながっているのだと思います。


2028年ロサンゼルス五輪での実装を見据え、空飛ぶタクシーの社会実装が進んでいます。ArcherはLA28の公式エアタクシー事業者に選ばれ、ロサンゼルスでの運航開始に向けた準備を本格化させています。





社会実装の考え方を経営に取り入れる


私は、新技術の社会実装で使われている「許容できる範囲を決め、その中で小さく始める」という考え方は、企業経営にもそのまま応用できると思っています。新規事業、新しいシステム、人材登用、出店など、経営には常に不確実性がありますが、最初からすべてを完璧にして始める必要はありません。大切なのは、どこまでなら失敗しても会社として耐えられるのかを決め、影響範囲を限定したうえで始めることです。たとえば新規事業なら、予算や期間を区切って検証する。新しいシステムなら、まず一部署から導入する。新しいサービスなら、一部の顧客に限定して提供する。最初から大きく賭けるのではなく、許容できるリスクの中で小さく始め、結果を見ながら改善していく。社会実装が「安全になるまで待つ」のではなく「管理できる状態をつくって前に進む」のであれば、経営も同じように考えられるのではないでしょうか。






実際にどう判断するのか。私が見る3つの基準


会社経営においても、新規事業、出店、M&A、人材登用、新しいシステムの導入など、ほとんどすべての意思決定にリスクがあります。新規事業を始めれば失敗するかもしれない。新しい人を責任者にすれば期待通りの結果が出ないかもしれない。AIを導入すれば現場が混乱する可能性もあります。だからといって、失敗する可能性がゼロになるまで待つことはできません。もし経営判断のたびに「絶対に失敗しないか」「問題は一切起きないか」と考えていたら、最終的には何も決められなくなってしまいます。むしろ経営者が考えるべきなのは、失敗するか、しないかではなく、失敗した場合に会社としてどこまでなら耐えられるのかだと思っています。そして、ゼロリスクを求めずに前へ進むためには、怖いか、怖くないかという感覚だけではなく、自分なりの判断基準を持っておくことが大切だと思っています。私は新しい挑戦を判断するとき、経済的損失、信用毀損、謝罪・回復の難易度の3つを見ています。



1.経済的損失


まず考えるのは、その挑戦が失敗した場合に最大でどれくらいの経済的損失が出る可能性があるのかということです。投資した資金だけではなく、撤退するときに追加で発生する費用や、その間に失う機会まで含めて考えます。新規事業であれば、成功したらどれくらい利益が出るかだけを見るのではなく、失敗したら最大でいくら失う可能性があるのかを先に見ておく。その損失が会社全体の経営を揺るがすほど大きいのであれば、当然慎重になる必要があります。一方で、仮に失敗しても会社として十分に吸収できる範囲なのであれば、挑戦する余地は大きくなります。挑戦するかどうかを決める前に、まず負けたときの大きさを知っておくということです。


2.信用毀損


次に見るのは、失敗したときに、お客様、取引先、社員、社会からの信用をどれほど失う可能性があるのかということです。お金は取り戻せることがあります。しかし、一度失った信用を取り戻すには長い時間がかかります。そのため私は、同じ失敗でも金銭的な損失で終わるものと、会社やブランドそのものへの不信につながるものは分けて考えています。たとえば、新しいサービスを試して想定ほど売れなかったのであれば、その損失は比較的コントロールしやすいかもしれません。一方で、お客様との約束を大きく損なったり、会社そのものへの信頼を失ったりする可能性が高い挑戦であれば、同じ金額の損失でも意味はまったく違います。挑戦によって得られるものだけでなく、失った場合に何が残らなくなるのかを見ることも重要だと思っています。


3.謝罪・回復の難易度


そして三つ目が、謝罪・回復の難易度です。私はこれも、経営判断において非常に重要な基準だと考えています。何か問題が起きたときに、きちんと説明し、謝罪し、改善することで関係を修復できるものなのか。それとも、一度起きてしまったら、どれだけ謝っても取り返しがつかないものなのか。たとえば、一時的なサービス停止であれば、原因を説明し、謝罪し、改善策を示すことで信頼を回復できることがあります。一方で、人命に関わること、重大な個人情報の漏えい、取り返しのつかない信用毀損などは、同じ「失敗」という言葉で括ることはできません。だから私は、新しい挑戦をするときに、成功した姿だけではなく、もし失敗したら、どのように説明し、どこまで回復できるのかまで想像するようにしています。


経済的損失、信用毀損、謝罪・回復の難易度。この3つを見たうえで、それでも会社として許容できると判断できるのであれば、私は前に進んでいいと思っています。





挑戦を個人の勇気にしない


ここで重要なのは、経営者自身が判断基準を持つだけで終わらせず、その基準を組織にも共有することです。「どこまでなら自分たちで判断して進めていいのか」「どのラインを超えたら相談すべきなのか」が曖昧なままでは現場は簡単には動けません。経営者が「もっと挑戦してほしい」「失敗を恐れるな」と伝えていても、失敗した瞬間に責任だけを追及されるのであれば社員は当然慎重になります。「挑戦しろ。ただし失敗するな」という状態では人は動けないからです。だからこそ、予算、期間、対象顧客、影響範囲などをあらかじめ区切り、「この金額までは検証コストとして考える」「この範囲までは試していい」「ここを超えそうなら一度止めて相談する」といった基準を明確にしておくことが大切です。挑戦を促すということは、精神論で勇気を求めることではありません。経営者が失敗できる範囲を設計し、その中で現場が思い切って判断できる状態をつくることです。そうなれば、挑戦は個人の勇気ではなく、組織の仕組みに変わっていきます。





ゼロリスクではなく、前に進める仕組みをつくる


新しい技術の社会実装を見ていて感じるのは、前に進む組織には挑戦する勇気だけではなく、どこまでなら挑戦していいのかを決める仕組みがあるということです。企業経営も同じで、リスクをゼロにすることはできません。だからこそ経営者に必要なのは、リスクを恐れないことではなく、起こり得る損失を具体的に見積もり、会社として許容できる範囲を決めることだと思います。どこまでお金を失えるのか、どこまで信用を損なう可能性があるのか、そして問題が起きたときに説明し、謝罪し、どこまで回復できるのか。その基準を持ち、組織にも共有したうえで前に進む。強い会社とは、失敗しない会社ではなく、失敗の大きさをコントロールしながら、挑戦と学習を続けられる会社なのかもしれません。HIRONORI KAJIKAWA









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