TOP>マーケター>時流から考える『付加価値のつくり方』

時流から考える『付加価値のつくり方』

『デマンドプル』アメリカの現状


先月ハンガリーへ渡航し、空き時間を利用して物価の市場調査を行ってみた結果、ハンガリーの物価は日本よりも高い傾向にあることが分かったということを前回のブログで記述しました。そして、食品や物品、サービスのほとんどが日本と同額水準かそれ以上であったため、驚いているのと同時に「日本の安さ」が気になっています。物価水準が決まるのはさまざまな要因がありますが、最終的には「付加価値のつくり方」が価格に大きく影響してきます。ということで、今回は「付加価値のつくり方」について焦点をあててみたいと思います。


まず、GDP(付加価値の合計)世界1位といえばアメリカ。そのアメリカは今、日本では考えられないくらいの物価高であると聞きます。では、アメリカの物価高はハンガリーのように実生活を苦しめているのかどうか、ということが非常に気になるところ。ということで、アメリカの友人に物価高の現状について聞いてみました。すると「物価の高さは日本とは比べ物にならない。原因はパンデミックにより需要と供給のバランスが崩れたこととロシアのウクライナ侵攻が大きい。だが、アメリカは同じく所得も上がっているので実生活ではあまり変化がない」と語っていました。つまり、物価と所得が一緒に上がっているので生活に変化はないというのです。驚きですね。物価上昇の状態を指すインフレは「良いインフレ」と「悪いインフレ」があるそうで、今のアメリカは物価と所得の両方が上がっているので良いインフレであり、これを「デマンドプル」と言うそうです(悪いインフレは「コストプッシュ」)。ニューヨークにある一風堂の代表ラーメン「白丸」の値段は18ドル。チップと税金を加えると3,000円弱しますが、普通に学生が並んでいるといいます。アメリカは景気が良いとはいえ何故そのような経済状況になっているのか、もはや不思議であります。


アメリカは今、企業が利益を出しやすい状態にあるため労働者の所得も上げやすい状況にある、というのが今の日本との大きな違いとなります。しかし、なぜアメリカは利益が上げやすいのか?そのあたりを友人に聞いてみたところ、要因は2つあるといいます。

①アメリカは消費税がない
②労働生産性が高い


アメリカは日本でいう消費税がなく、その代わりに消費者のみに課せられる「小売売上税」というものがあります。企業の生産行程では税金は掛からず、売買行為の際に税金が発生するのは消費者が購買する時だけ(しかも税率は低い)。この税制は企業の後押しをするための制度であり、これがあることで企業のスタートアップが多かったり、世界的大企業がアメリカに集まってくるという経済的構図になっているのだといいます。しかし、これは日本の企業が参考にすることは出来ないので、スルー。もうひとつの「労働生産性が高い」というのは、話しを聞いていて日本にとって大いに参考になるのではないかと感じました。労働生産性とは、従業員1人当たりがどれだけの価値を生み出したかを指標化したもの。企業が生産によって生み出した付加価値を従業員数で割って求めるもので、労働の効率性を測る尺度になります。アメリカは労働生産性が世界4位、日本は29位です。ちなみにコストプッシュ(悪いインフレ)に悩むハンガリーは31位で日本とほぼ同じ(複雑ですね)。



(公益財団法人日本生産性本部:労働生産性の国際比較2022より引用)


このデータを見るとアメリカは効率よく付加価値を生み出している国であるといえますが、今の日本でも企業が参考にすることは十分可能であります。ちなみに、アメリカの労働生産性が高い理由としては、IT関連への積極的な投資、対等なサービス業の対価、新しいことに挑戦できる労働環境などが挙げられるそうです(特に大きな違いが出る産業としては飲食サービス業だとか)。このあたりを参考にして、日本も物価高(一応、日本もインフレは始まっている)に連動した所得高を目指していくべきだなと、話しを聞きながら感じました。





時流から考える『付加価値のつくりかた』


「デマンドプル」アメリカの現状が何となく分かりました。しかし、現実的に労働生産性を高めるのにはそれなりの時間を要します。それはそれでやりつつも、他に付加価値を高める方法がないものか。最近、購買体験を通じて「価値の感じ方」に変化が生じているように感じていますので、主観を交えながら記述しておきたいと思います。


『価値は機能から意味へ』


世界から見た日本の良さ。それは「高品質」ということが挙げられます。今や日本中の飲食店のメニューはどれも美味しいし、どのお店もサービスが良い。どの企業の製品も便利で見た目も良い。逆にいうと「もっと美味しい」「もっと便利に」「競合よりも凄いもの」といった機能面で差別化して価格を上げる(付加価値を高める)ことが難しくなってきています。この状況でさらに品質(機能面)に投資をしても自己満足の領域に入ってしまい、残念ながら顧客には伝わらない努力になってしまう可能性もあります。つまり、機能は価値にならなくなってきていると捉えるべきかもしれません。そこに代わって登場してきた新たな価値が「意味」です。友だちが経営するお店の料理が最高、お気に入りのホテルのサービスが心地よい、大好きなアイドルを応援したい、サステナビリティを意識したあのブランドがカッコいい、SDGsに取り組む企業の製品が安心、など。これら「意味」の付いた物やサービスを購買する時は価格が優先ではなく、むしろ価格をあまり気にしないという経験が増えたなと個人的には思っています。また、家族との体験や価値観の合う人とのコミュニティーなどに使うお金も増えました。逆に「機能」に対する出費は減っていると感じています。これは、意図的にそうしている訳ではなく、意味があるものに魅力を感じるようになり、その価値に対して対価を払うようになったという、いわば「時流の変化」であると捉えています。


時流から考える「付加価値のつくり方」という観点から世の中を見てみると、この「意味」というのがこれからの新たな価値になっていくのは、一定数あてはまることではないかと思います。既に機能よりも意味に価値を付ける物やサービスが増えてきており、実際にそれらの価格は決して安いとは言い難いものが多い傾向にあります。「機能」が価値になりにくい時代になってきた今、「意味」を価値として本気で考えていく時代になったと捉えるべきかもしれませんね。HIRONORI KAJIKAWA