TOP>マーケター>『戦略的観光都市』長崎

『戦略的観光都市』長崎

観光都市として長崎市の成長を支えているのは『長崎市観光・MICE戦略』という長崎市が策定した観光戦略であります。この『長崎市観光・MICE戦略』は非常に明確な内容になっており、実際に成果も挙げているということで、個人的にとても興味を持っていました。観光リソースのSWOT分析から方針策定や投資判断を行うことで、着実に観光客数と観光消費額を伸ばしてきています。たまたま、先月末に親戚の結婚式があり、『長崎市観光・MICE戦略』を頭に置きながら長崎市の観光施設を何ヵ所か視察してきたので、視察レポートとしてまとめておきたいと思います。ちなみに私、5歳まで長崎県平戸市で暮らしていました。





<長崎市の観光リソースのSWOT分析>


「長崎市観光・MICE戦略 Ver.1.1」より引用
https://www.city.nagasaki.lg.jp/syokai/730000/731000/p036435_d/fil/2021-.pdf





強みを徹底的に活かす方針


SWOT分析の『強み』にもあるように、長崎市には特徴ある歴史・文化を有する観光施設や文化財などが豊富にあります。長崎市はこれを観光の『強み』として徹底的に活かす方針を取っています。



<古の貿易都市>


長崎市は貿易都市として江戸時代以降、積極的に外国と貿易を交わしていました。外国との盛んな交流によって独自の文化が生まれ、特徴ある建造物が各地に創造されました。その独自の文化と特徴ある建造物は様々な国や偉人が関わっており、どれも魅力的な観光施設として観光集客の主軸になっています。

・ポルトガル→教会
・イギリス→旧グラバー邸
・オランダ→オランダ坂や洋館
・中国→唐人屋敷跡や中華街
・岩崎弥太郎→三菱財閥の貿易施設
・坂本龍馬→亀山社中跡(亀山社中記念館)

確かに、どれも魅力的で観光コンテンツとしてはかなり強力です。長崎市は、この強力な観光コンテンツを徹底的に活かす方針を取っています。





<2つの世界遺産>


そして、長崎県にはさらに強力な観光コンテンツがあります。それが『世界遺産』です。現在、長崎県には2つの世界遺産があります。1つが『長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産』で長崎市では大浦天主堂が登録されています。そしてもう1つが『明治日本の産業革命遺産』で軍艦島や旧グラバー住宅が登録されています。どちらも見応えのある世界遺産ではありますが、特に『軍艦島』は2015年の世界遺産登録後、経済効果も100億円規模へと大きく伸びているといいます。今回は時間を割いて軍艦島まで足を延ばしてみました。




最も軍艦に見える角度から写真撮影。本当に軍艦みたいに見えますね






昨年から波が50センチ以上あると上陸禁止になったのですが無事に上陸(知床事故から安全対策が強化)






これは元病院だそうです






これが国内最古(1916年建築)の鉄筋コンクリート造アパート「30号棟」






良い天気だなー






同じく『明治日本の産業革命遺産』で世界遺産登録されている旧グラバー邸






大がかりな保存修理工事が昨年10月に終了しました






もう一つの世界遺産『長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産』に登録されている大浦天主堂






<豊富な観光コンテンツ>


長崎市にはまだまだ強力な観光コンテンツが豊富にあります。年間150億円以上の経済効果を生む『夜景』。長崎の夜景は世界三大夜景に認定されています。また、『おくんち」や『長崎ランタンフェスティバル』などの祭りも人気で、毎年多くの人で賑わっています。食文化も『ちゃんぽん』や『カステラ』など歴史的背景を持つものが多く、歴史を感じながら堪能できます。そして、意外と観光客数が多い観光コンテンツとしては『島めぐり』もあります。長崎県は国内で最も島が多く(島数971)、船に乗ってのツアーも充実しています。このように長崎市は羨ましいくらい素晴らしい観光コンテンツを有する観光都市であります。





弱みを克服する投資


長崎市のSWOT分析によると『弱み』として挙がるのが『交通の便の悪さ』だそうです。確かに、電車では行きにくいですし、飛行機の便数が多いわけでもない。国際便となると1日に数本程度。交通の便は良いとは言えません。しかし、そこはさすが『戦略的観光都市』の長崎。近年、長崎市の主たる投資先は『インフラ整備』です。2022年9月に西九州新幹線が開通したことで博多駅と長崎駅が新幹線で結ばれました。乗車時間は1時間20分。それに合わせて長崎駅周辺は大規模な再開発工事が行われており、ちょっとした建設ラッシュになっています。ハイクラスホテルも建設中。このインフラ整備への投資によって『弱み』である交通の便の悪さが解消され、観光客数と観光消費額は更に上昇することでしょう。戦略的投資ですね。





そして、カジノ誘致へ


現在、長崎県はハウステンボスにカジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致を目指して準備を進めています。誘致が実現した場合の九州圏内への経済波及効果は年間3200億円で、雇用創出効果は3万人に上ると試算されています。当然、観光都市である長崎市への経済効果は莫大な規模になることでしょう。長崎市は国際的観光都市へと向けて着々と準備を進めています。




「長崎県ホームページ」より引用





長崎市は、維持予算をしっかり確保しながら歴史的文化遺産をとても大切にしています。そして、観光の『強み』として徹底的にその歴史的文化遺産を活用し、観光客数と観光消費額を毎年のように伸ばしています(コロナ禍は例外)。その収益をインフラ整備へと再投資し、さらなる成長の実現を目指す。強い収益源と明確な投資先があるからこそできる成長戦略です。まさに『戦略的観光都市』。これからの長崎市にはますますビジネスチャンスが溢れるかもしれませんね。長崎市で何か事業をやろうかな笑 HIRONORI KAJIKAWA